カテゴリー「作家 さ行」の記事

「少女には向かない職業」

「少女には向かない職業」 桜庭一樹

「中学二年生の一年間で、あたし、大西葵13歳は、人を二人殺した」
この一文から始まる、「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」に負けず劣らない衝撃的な物語。
最初は「殺した」というのは比ゆ的な意味での「殺した」なのかとおもっていたんだけど。

ただ今回のほうが非現実的で作り物っぽい気がした。とくに中学生の少女二人であんなことができるのかなあとおもったり。妄想っぽい部分がおおい。
それもふくめてこの年頃の少女らしいかんじもするけど。

この人の本は中学生のころの、ちょっとしたことでどっぷりと落ち込んだり、こわくなったり、一時の感情の高ぶりでいらいらして馬鹿なことをしてしまったり…そういう不安定な気持ちを思い起こさせてくれる。
すこしだけ、子供の心に寄り添ってみようかと思える。

☆☆☆

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「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」

「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」 桜庭 一樹

なんだかよくわからないタイトルですよね?
桜庭さんはちょうど「赤朽葉家の伝説」を読んで面白かったので、ほかのも読みたいと思い、なんの予備知識も無く読み始めたんですが。

ものすごく衝撃的な物語。軽い、ユーモアのある今風の文章とは裏腹の、ヘビイな内容。

「ストックホルム症候群」という言葉をはじめて知りました。
誘拐などの状況で自由を奪われ、密室で犯罪者とともに何日も過ごした人間が、犯罪者から逃げ出すどころか、犯罪者に協力したり、また開放された後も犯罪者をかばったりする心理のこと。
そういう事件がかつてあったということは知っていましたが、この言葉は知らなかった。

そして虐待を受けている子供も同じ状況になるんだそうです。だから虐待を認めず、むしろ親をかばう。
この話に出てくる海野藻屑(この名前からしてすでに虐待)は、「自分は人魚だ」という物語を作ることで、その非情な家庭環境を耐えている。

「ぼく、おとうさんのこと、すごく好きなんだ。」「好きって絶望だよね」

まだ中学生である彼女には、逃げ場所も無く、武器も無い。撃てるのは「砂糖菓子の弾丸」だけ。

つらい、あまりにもつらい物語が、淡々と、ときおりくすっと笑ってしまうほどのユーモアのあふれる文章でカルく、カルく、語られる。

ひじょうに表現力のある作家さんです。こころにずしんと来る。
これはぜひほかの作品も読まなければ。

☆☆☆☆☆

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「死神」

「死神」 篠田 節子

社会福祉事務所ではたらくケースワーカーたちの奮闘を描く連作集。

さすがに篠田さん、人物描写が細かく、内容も緻密な取材に裏打ちされた現実味あふれる内容。

この物語を読みながら思ったのは、生活保護の受給者ってけして「対岸の火事」ではないなあということ。
今の時代、ちょっと気を抜けば一文無しになんて簡単になれるし(テレビをつければ、町に出れば、購買意欲を掻き立てる広告の嵐だ)。

どの話もよかったけれど、とくに、転落したもとヤングアダルト小説家の話が印象的だった。(ファンタジア)
人から注目されなくなってもその人の人生が終わるわけではない。生き続けなければならない。「あのひとはいま」に出てくる芸能人のように。

しかし楽な仕事というのは存在しないだろうとはおもうけど、ほんとうに大変な仕事で身も心もすりへらしそう。

☆☆☆☆

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「赤朽葉家の伝説」

「赤朽葉家の伝説」 桜庭一樹

鳥取県西部の紅緑村(べにみどりむら)を舞台にした母娘三代に渡る大河小説。

ひとりめの主人公は、語り手の祖母、万葉。
終戦のすこしまえに、「辺境の人」とよばれる山脈に隠れ住む流浪の民がおいていった赤ん坊である。
未来視の能力があり、地元で代々製鉄業をいとなむ旧家「赤朽葉家」に嫁ぐ。

その娘毛鞠はあらぶる丙午の生まれ。山陰地方一体のレディースをとりしきるつわものに成長するも、とつぜん漫画家としての才能に目覚める。

そしてその娘瞳子。じぶんについては「語るべきことは何もない」といいつつ、彼女は祖母と母の残した謎を解明するために奔走する。

膨大な参考文献に支えられて書かれた、壮大なスケールの物語だった。
一番心引かれたのは「最後の神話の時代」万葉の物語。
自殺者が出ると「トコネン草」を燃やしてそれを合図に「辺境の人」たちが遺体を処理にくる話とか、「おとこおんな」だったみどりの兄の悲惨な最期とか、
ひとむかし前の、でもいまからたった50年ほどまえの時代の地元の風習や文化がありありと描かれていておもしろかった。

つらい話もあるのだけど、どこか明るい語り口で読み進められる。

製鉄所の職工、豊寿が素敵でした。この時代にうまれてこんな人と一緒になれたらよかったなあなんてちょっと夢想…

桜庭さんはお初なんですが、「私の男」の雰囲気から抱いていたちょっと軽いイメージは一掃されました。超大作です。ほかの作品もぜひ読んでみたい。

☆☆☆☆ 

それにしてもわたしは二人目の主人公と同い年なんだけれど、この世代全部が暴れ馬みたいな書かれ方なのにはすこし抵抗が…。

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「贋作師」

「贋作師」 篠田 節子

「生き過ぎた」という遺書を残して自殺した画家。
かれの遺作の修復を依頼された修復師の成美は、その画家の死、そして彼の弟子にして成美の美大時代のライバル、慧の鉄道自殺の真相を知るために行動するのだが…というミステリー。

篠田節子さんは好きな作家の一人で、しかもいままでたぶん15冊以上は読んだけれども1作たりともハズしたことがない。
しかしこの作品は残念ながら好きではなかった。

グロい。グロすぎる。
修復作業の描写の細やかさや、息をもつかせぬストーリー運びで読むものを引き込む力はやはりさすがですが。
愛の物語ではあるのだけれど。
ホラー、スプラッタ系が得意な方にはおすすめかな。わたしは苦手です。

☆☆☆

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「歳月」

「歳月」 司馬遼太郎

たまたまつけたNHKの番組で、日本の司法制度の祖、江藤新平の物語を放映していたのを見て、この人物に興味を持ち、読んでみる。

佐賀の非常に貧しい下士の家に生まれ、3度の食事もままならぬような暮らしをしていた江藤は、やがてその類まれなる頭脳と才覚をもって司法卿にまで登りつめ、司法制度の骨格をつくる。
そして所詮は幕府に取って代わって薩長が私物化していた政府をただし、その正義感から非道なふるまいをしていた要人を断罪するも、征韓論に敗れて佐賀へ帰る。

かれは薩摩の大久保利通によって、法律を無視した死罪になり(このあたりがもと司法卿としては非常な皮肉)非業の最期を遂げるのだけれど、ほんとうに新政府転覆をたくらんでいたとは思えない。
むしろ、不平士族を持って反乱を起こすのではないかという「疑い」だけで、新政府に先制攻撃を仕掛けられ、あれよあれよというまに転落せしめられたという気がする。

ものすごく頭のいい、しかし今風に言うと「空気の読めない」ひとだったという印象でした。
それにしても、なにより日本のことを一番に考えていた人だなあと。自分の保身や個人の幸せなどよりも。
幕末や維新のころにはこういう人物が数おおくいますね。

しかしこれをよんで、薩摩の大久保利通がかなり嫌いになりましたね。(司馬さんも文章の中で徳川家康と大久保利通ぐらい、その功績の割りに好かれていない人物もいない、というふうに書かれていますが)

☆☆☆☆

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「ナラタージュ」

「ナラタージュ」 島本理生

人を好きになってしまうことの「どうしようもなさ」が、抑制された文章で淡々と語られる。
恋愛主体の話なのに、ぜんぜん甘くない。ただただ苦しくてせつない。
こてこての恋愛話はどちらかというと苦手なのに、この小説は一気に読めた。
若い作者だけれど、そのことを感じさせないような落ち着いた知的な文章。人を引き込むたしかな筆力がある。

☆☆☆☆☆

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「その日のまえに」

あけましておめでとうございます。

本年も去年にましてまったりまったり更新することになると思います。
たぶんミクシイのほうがメインになると思うので、ここは個人的な「読書および観劇記録」の意味合いが強くなるとおもう。
それでさえいいかげんな内容になっている気も(汗)。
そんなんでもよろしければお付き合いの程を。

「その日のまえに」 重松清 著

本年第一弾がこれ。余命宣告にまつわる短編集。
元旦からいきなり余命宣告の話を読んでしまいました。

でも暗くもなくセンチメンタルに過ぎることもなく、おだやかに死への準備をする人々の話。

たしかに余命宣告されるということは、逝く人にとっても残された人にとっても、つらくせつないことなわけだけれど、
ある意味死への準備が出来るだけ、いい死に方なのかもとさえ思えてくる。そのぐらいおだやかな物語たちだった。

でも実際に身内が余命宣告されたわたしの経験から言えば、もっと「生きること」に執着して、本人もまわりも葛藤があったので、そのあたりが違和感をおぼえたかな。たぶん筆者の主題はそんなところにはないと思いますが。

☆☆☆

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「天国はまだ遠く」

「天国はまだ遠く」瀬尾まいこ 著 を読む。

主人公は仕事で失敗ばかりのOL、千鶴。物語は、彼女が自殺しようとある田舎の町にやってくるところから始まる。

最果ての地の、しかもほとんど開店休業状態の民宿にやってきた彼女は、睡眠薬をたっぷり飲んでさあこの世よさようなら…
とおもったら、なんの因果か爆睡しただけで目がさめちゃう。
再チャレンジする勇気もなく、そのままその民宿の主人の手伝いをしたりしてなんとなく3週間くらいすごし(いわば人生の猶予期間みたいなものかな)、やがて自分の居場所はここではないと悟って「現世」にもどってゆく…

いってしまえばそういうお話。(ここでその民宿の主人とラブラブになってしまえば出来すぎな話になるのですが)

心温まるいい話っぽいけど、なんか全体的にリアリティがないなあという印象でした。さらっとしすぎているというか。
主人公も本当に死にたいのか、そもそも死ぬほどの動機があるのか?っていうかんじ。

いま日本では年間の自殺者が3万人を超えていて(これって異常事態じゃないですか?)、しかも60代が一番多いそう。

経済的な不安や孤独や、そういうものが60代になると身にしみて感じてしまうのかもしれないけれど、悲しくてやりきれないよね、そういうの。これから先にそんな暗い時代が待ち受けているのかと思うと、ちょっと絶望的な気分になる。

それにくらべると、この主人公ははっきりいって「ふざけんじゃないよ」(まあ乱暴ね)と思いますね。松山千春じゃないけど(ふるっ)「生きることがつらいとかくるしいだとか言う前に力の限り生きろよ」って。

そう思うってことは、いまわたしのこころは元気なのかな、やっぱり。問題山積みの人生なれど。

☆☆☆

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「幸福な食卓」

「幸福な食卓」 瀬尾まいこ 著 を読む。

中原家は、教師である父親と農業をいとなむ長男直ちゃん、中学3年の長女佐和子(この物語の主人公)の3人暮らし。
毎朝決まった時間にかならず家族そろって食卓を囲む、どこにでもある幸せな家庭である。父親が5年前に自殺未遂を起こし、母親は家を出、目撃した長女がPTSDに悩んでいることを除けば。
唯一のほほんと生きているように見える直ちゃん(すごく優しくていい子。みんないい人たちばかりなんだけど特に)は、じつは「真剣さ」を捨てることでやっと生き続けられているし。

一話完結の短編集の形をとっているけれど、登場人物はすべておなじ。
ひとつひとつの物語のなかで、かならずひとつの些細な(些細じゃないのもあるけど)事件がおきるのだけれど、それをすべてその家族のつながりや、周りの人とのつながりで乗り切ってゆく。
人を落ち込ませるのも人なら、最終的に救うのも人なんだよね。
読んだあと暖かい気持ちになれる、そして登場人物たちがとてもいとおしくなる素敵な物語だった。

しかし、ラストの話は悲しすぎる。涙が止まらなくなってしまった。
いくら人とのつながりでどんなことも乗り越えられるといってもあれはちょっと反則だよなあ。

この瀬尾まいこさんというかたはまだ30代前半で、現役の国語教師だそう。
自分より年下の作家さんの小説はあまり読まないのだけれど(とくにケータイ小説とかは読む気にもならない)、これはかなり好きだった。
さりげなくてユーモアの利いた、優しさに満ちた文体で好感度大。ぜひべつの小説も読んでみたいと思わせられる。

☆☆☆☆

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