カテゴリー「作家 た行」の記事

「悼む人」

「悼む人」 天童 荒太

一面識もない死者を「悼む」旅を続ける青年、静人。
どう死んだか、ではなく、生きているあいだに誰を愛し、誰に愛され、どんなことをして人に感謝されたことがあるかだけを関係者に尋ね、そのことをもとに死者を悼み、覚えておこうとする。
次から次へと死者を探しては悼む旅をつづける彼を、他人はおろか家族でさえ理解しきれずにいろいろな摩擦を生むのだが、彼は旅をやめることができない。そんな彼を哂いつつ、疑いつつ、惹かれていく人間たちが現れて…。

読み終わったあと心に深くのこる何かがある。
重い、人間のこころの深淵にふれるような物語。
とくに、妻に「殺された」男、甲水朔也が印象的だった。

たぶん誰の心にもほんのすこしだけ、静人はいるんじゃないかな。
だから人はかれに惹かれてゆくんだと、今日もテレビで流れる痛ましいニュースを聞きながらおもった。

☆☆☆☆☆

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「症例A」

「症例A」 多島 斗志之

精神科医の榊は、前任の医師の死により、精神分裂症(らしい)とある少女を担当することになる。気分変動の激しい彼女に振り回されながらも診療を続けるうちに、さまざまな衝撃の事実があきらかになってゆく。

最近読んだ本の中でダントツにおもしろかった。
精神科医の話と、博物館での贋作疑惑をめぐる話が平行して語られ、やがてそのつながりが明らかになってゆく。

膨大な参考文献に基づいて書かれたまさに力作。圧倒的なリアリティ。
この作家ははじめて読んだけれど、相当な実力を持った人だと思う。ぜひ他の作品も読んでみたい。

しかし多重人格って不思議な病気。

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「残花亭日暦」

「残花亭日暦」(ざんかていにちれき)田辺聖子著 を読了。
田辺聖子さんお初ですね。

田辺さんのご主人(といってもじつは入籍してないけど)が闘病の末亡くなるまでの経緯と、御自身の多忙な日常が、独特のユーモアを交えて日記形式でつづられている。

ともかく田辺聖子さんの「生きる」パワーに圧倒。
ご主人の看病のかたわら、膨大な量の原稿を書き講演をこなし、ときには仲間と痛飲したりもしながら、明るくたくましく生きてゆく彼女。
旦那さんが重病なときぐらい仕事断って看病すれば?という向きもあるかもしれないけれど、
たぶんこの旦那さんは、仕事そっちのけでつきっきりに看病されることよりも、奥さんがその稀有な才能を生かして彼女にしか出来ない仕事をし、生き生きと生きてくれることを望んだんじゃないかな。
田辺さんもきっと仕事をすることで気持ちを切り替えることが出来たから、10年以上にわたる旦那さんの闘病生活に耐えられたんだろうと思う。

しかし旦那さんの病気の重篤なことを医者に告げられ、病床でつい涙をこぼした田辺さんに旦那さんがかけた言葉がいい。
「かわいそに。ワシはあんたの味方やで」

ドラマとおなじく、ほんとうに仲のいい夫婦だったんだなあと思った。
わたしにとってすごく理想的な夫婦だったんです、あのドラマ。

しかし、つい旦那さんが國村隼さんに脳内変換されちゃうのはこまったもんですー。
田辺さんの顔は知ってるからだいじょうぶなんだけど。

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「旅人の心得」

「旅人の心得」田口ランディ著 を読む。

一時期好きで読破していたが最近はご無沙汰だった田口ランディさん。
小説でもエッセイでも、何を読んでもその独特な世界観とか考え方とかには、目からうろこが落ちる思いがする。わたしにとって特別な作家の一人かな。

この本は題名からすると旅の話みたいだけれど、じっさいにはそれにとどまらず日々さまざまな人とのかかわりのなかで感じたことや考えたことなどをつづったエッセイ。
このひとは、湯河原に拠点を置きつつ、でも新宿ゴールデン街なんかでしょっちゅう飲んでて(酔っ払い相手にけんかしちゃったりもする豪快さもある)、ダイビングやトレッキングなどとアウトドアライフも大好き、というアクティブな人。
でも(と、ここで「でも」が入るのが適切かどうかはさておき)、基本的にまっとうで謙虚な人だと思う。
そして物事の本質を見抜くたしかなこころの目を持っている人、という気がする。
だからユニークな人と出会えるのかも。(ユニークな人が多いんだ、このひとの知り合いは)

この人の本を読むと、難しいことはさておき、木々の中で深呼吸でもして自分の内なる声に耳を済ませてみれば、いろんなことが見えてくるんじゃないかという気がする。そして自分にとって気持ちいいことをすればいいんじゃないかと。

そういえば寺門琢己さんの本を知ったのもこの人との対談を読んでからだったな。
からだの声をきけばいい、という言葉が印象的だった。

ドキッとした言葉があった。
「世界というのは自分が知っている範囲でどんどん閉じていく。仕事や家庭の中でおなじ人間同士で同じようなことをずっと続けていくと、そこで世界がどんどん閉じてしまう」というもの。

しんどくてもときどきは未知なる物に触れなくてはならないのかも。

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